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目・耳そして不帰

 辻井伸行さんのCDがデヴューアルバムとして新記録を作ったという。ピアノを弾いている姿を見ていると、音と戯れ、その時間に生を実感しているさまが伝わってくる。音楽以前におそらくその崇高ともいえる無心に「遊ぶ」辻井の姿に、聴衆は自分たちが忘れたものを垣間見てまず感動するのだろう。
 「遊」に関していえば、白川静先生の「遊ぶものは神である。神のみが、遊ぶことができた。」という言葉を思い出す。「遊」こそ芸能の本質であり、人生でもそうありたいと思う。

 「爆問学問」に障害学の福島智氏が登場した。彼は全盲聾で、初めて大学教授にまでなった人だ。言葉は常に傍にいる人による指点字という手法で他者とのコミュニケーションをはたしている。
 その福島氏は自身を宇宙の中に抛りこまれた存在のような孤独を感じると表現した。
 さらにナチス・ドイツに収監された思想家ヴィクトールEフランクルの体験から導かれた公式を紹介。それは「絶望=苦悩ー意味」というもので、福島氏はこれを移項して考え「絶望+意味=苦悩」であるから、人生の意味を感じれば絶望に至らないと自身を蘇生させたようだ。
 いつもは直載で鋭い太田もここでは「先生はいまが一番幸福ですか?」という愚問を発せざるを得なかった。私ももちろん、太田にも理解も想像も絶した世界の只中に福島氏がいるからそんな質問しかできなかったのだろう。
 が、太田の名誉のために敢えて言うとーーーこれに関し福島氏が「しんどいこともある、太田さんだってしんどいでしょ」と応じると、太田は即座に「田中はしんどくないけど」と面目躍如な答えを返したことを付記しておく。

 三沢光晴というプロレスラーが試合中に亡くなった話を聞いた。私はまったくその世界を知らなかっ
たから、三沢の生前の試合ぶりや斯界で果たしてきた業績に関してはTVの情報でかろうじて得た程度だが、その活躍と業績、そしてファンの信頼の篤さには驚いた。
 ふと思い出したのは、友達だった坂東寿二郎さんが「まかしょ」をリハーサルで踊りながら旅立ったこと。「しまりやっせ」という歌詞でころりと舞台上で横になる振りがあるのだが、そのままいびきをかきだしてしまい、不帰の客となってしまった。
 その後、彼の愛娘が二代目を継ぎ、今も私の所へ稽古に来ている。友が私に託した娘というメッセージ…ときおり、これでいいのかい?と友の声を求めて耳を澄ますことがある。
by nihon_buyou | 2009-06-16 08:14 | 日本文化・しぐさ 他
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