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清水由紀子よ、お元気ですか?

 清水由紀子が「スター誕生」のオーデイションで、ギターを弾き語りした姿を今でも覚えている。あの時、同時に合格し審査員のスカウト札を多く集めたのが後のピンクレデイーだ。
 その時の清水はジーンズ姿で体から大きなギターがはみ出している印象だった。愛くるしいまでの笑顔だったが、そのキラキラした目はおどおどと何かに脅えているようで、その初々しさが同時合格のPLの垢抜けない田舎くささとは違っていた。
 ところがPLは一躍大スターになった。清水の晴れ晴れしいデビュウを期待していた私は1曲目の「お元気ですか?」を聴いて、少なからず落胆した。特に最後の「来てくだァさい~」での転調には肩透かしを食う思いがした。もちろんそれが,会えなくなった人との再会に希望を託した技巧であることは想像がつく。が、私には希望というより物足りなさ、頼りなさにしか受け取れず、逃げずにもっと高らかに歌い上げてのコーダを期待したものだった。しかし、好感度は抜群でもインパクトの薄い彼女の売り出しとしてはこれが精一杯だったのかもしれない。
 その清水がバラエテイーに転身して、当時の危うさやとまどいの片鱗もないくらいの明るいキャラでの再登場が、私を内心またもがっかりさせた。これも生き方ー別段、すれ違ったこともない一個人の趣味に合わせる責任は清水にあろう筈もないし、彼女がオーデイション当時にかすめた一瞬の表情の幻を追う人間の存在なんか知るすべもなくていい。
 が、私は今回のニュースを知り、あの時の脅えの表情の意味が理解できたような気がした。明るく素直、家族思いという殻を与えられた彼女の人生。ニュースショーなどでは今回の結末が家族介護の現況への問題提起に転換しつつある。ニュースネタとしては確かに世間に与えるインパクトはある。が、それとは別次元で、私はこの結末とあの合格の瞬間の表情とを重ね合わせて思わずにはいられないのだ。
 私はあの時清水の魂の記憶が、課せられたこの日までの人生図を逆走したために一瞬の脅えの表情を生んだと考えるようになっている。その証拠が「お元気ですか?」の転調の物足りなさであり、一方でスター街道を爆走したPLとのあまりの相違にもつながる。同時スタートでも、えてしてある人生の隔たり。とりあえずは多くの人に知られ、相応の仕事もある中でタレント業を引退せざるをえなくなった事情を今回報道でしらされた。清水の魂はあの時、すでにこれらを全て感知していたのだろう。それほどに彼女はピンスポの中、この未来にうち震えていた。届きそうで届かない梢の実ー
 清水由紀子のどこか物足りない結末は、あの時の脅えと転調の歯がゆさという形ですでに予告されていたのだ。一面識もなく、また特別に彼女のファンでは決してなかった私にこれほどはっきりと記憶させた印象。ここにはメッセージがあると考えざるをえなくこれを記した。
 明るく、家族思いのいい人という世間的評価をすませた彼女はいま、脅えのない新しい世界でデビュウを果たし、転調しないですむ「お元気ですか?」を高らかに歌い始めているに違いない。(合掌)
by nihon_buyou | 2009-04-23 09:46 | 映画・音楽 他
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